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ナイル2018年2月号連載【〈短歌版〉私の本棚・2 絶えて桜のなかりせば】 [ナイル短歌工房]

 二〇一六年四月三日、仁尾智と佐々木あららのポッドキャスト「僕たちだけがおもしろい」で「やさしい日本語にする」という放送があった。「やんしす」というソフトを使って、短歌をやさしい日本語に直してみようという試みである。
 「やんしす」は、減災のための「やさしい日本語」支援システムとして、弘前大学社会言語学研究室で開発された。具体的には、複雑な日本語が理解できない外国人にもわかりやすい日本語を目指し、「どこがわかりにくいか」を指摘する。できるだけ指摘が減るように文を書き換えていけば、最終的に「やさしい日本語」ができるというしくみである。
 放送で取り上げられた歌のひとつは、俵万智のあの歌。
  「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
 これに対する指摘は、
(一)ね: 難しい単語です。可能なら簡単な単語に置き換えましょう。
(二)七月: ほとんど理解してもらえません。可能なら簡単な単語に置き換えてください。
(三)記念: 難しい単語です。可能なら簡単な単語に置き換えましょう。
(四)文がやや長いので(三三拍)、文の分割を検討してください。の四点。推敲の結果、OKが出たのがこちら。
  この味がいいですと君が言いました。だから七月六日はサラダの日です。
 放送を聞きながら、この推敲の過程は短歌の翻訳に近いのではないかと私は思った。で、手元にある本で確かめてみることにした。
 本はドイツ語の『絶えて桜のなかりせば』、歌は同じ俵万智を選んだ。
  「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
 この歌に対する指摘は、(一)ね(二箇所): 難しい、(二)話しかければ: ほとんど理解してもらえない、(三)文がやや長い、の三点。独訳されたものを再和訳して入力すると、指摘は減ることが分かった。
  》Kalt ist's heute!《
  sag ich, und zuruck kommt
  》Kalt ist's heite!《
  …diese Walme, dass da
  einer ist, der Antwort gibt!
  「今日は寒い」と私が言うと、「今日は寒い」と返事がある。
  答えてくれる人がいるということに、心があたたかくなる。
 大まかな結論を言うと、主語、述語のない文章は理解されにくい、間投詞は不要、一文を短く切れば、全文はそこそこ長くても分かる、ということらしい。
 ちなみに、「サラダ記念日」の歌は、左記でもOKが出た。
  「これはおいしい」と君は言った。
  だから、私は七月六日をサラダの日と呼ぶ。
【書籍情報】
佐佐木幸綱(編訳)『絶えて桜のなかりせば』Reclam, 2009.


"Gaebe es keine Kirschblueten": Tanka aus 1300 Jahren

  • 作者:
  • 出版社/メーカー:
  • メディア: ハードカバー



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ナイル2018年2月号掲載歌【ひと日のあまり】 [ナイル短歌工房]

色うすきままを散りゆく黄葉に我あることの霜月みそか

さばへなす黙のあとさき頬杖のむかうにけふの思惟はひろがる

木(こ)の末(うれ)にあをきネオンのしんしんといちやう並木にとける靴音

打ち寄する波は聞こえず岸壁にしづもる冬の影のさしくる

くりかへし聴くモノクロの挽歌あり文字うすれゆくつまづきの石

冬晴れの空ゆ落ちくるひとひらの声のねむりへわれを誘いぬ

かたづかぬことをかかへてたまかぎるけふ一年にひと日のあまり

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ナイル2018年1月号連載【〈短歌版〉私の本棚・1 日本の詩歌(4)】 [ナイル短歌工房]

 教科書は別として、歌を目にしたきっかけが大岡信の『折々のうた』だったという人はどのくらいいるだろう。ネットで主に歌を発表している人達の中では「夜ぷち」や「かんたん短歌」が作歌のきっかけになった人が少なくないと思われるが、昨年大岡氏の訃報に際し、ツイッターで『折々のうた』を話題にした人は意外に多かった。
 『折々のうた』は一九七九年一月二五日から二〇〇七年三月三一日まで、朝日新聞一面に連載された。私自身もよく読んでいて、古歌から現代短歌まで「こんな詩歌があるのか!」と新鮮に思ったものだ。
 『折々のうた』に掲載された短歌が印象に残り、初めて買った歌集が『日本の詩歌(4)』。与謝野鉄幹、与謝野晶子、若山牧水、吉井勇のアンソロジーである。
 新聞で見つけたのは、吉井勇の有名なあの歌。
  やみあがり吉弥がひとり河岸に出て
  河原蓬に見入るあはれさ
 『酒ほがひ』の後に吉井は竹久夢二の装丁になる歌集を複数出しているが、この歌から私が連想したのは、図らずも夢二の女性だった。歌自体、うら寂しげではあるが、まあなんとたおやかではないか。
 本書には、第一歌集『酒ほがひ』から一九四八年刊行の『残夢』までが収められている。初期は、先の掲出歌のように、祇園や酒を謳った歌が目立つ。
  少女言ふこの人なりき酒甕に凭りて
  眠るを常なりしひと
  かにかくに祇園はこひし寝るときも
  枕の下を水のながるる
  紅灯のちまたにゆきてかへらざる人を
  まことのわれと思ふや
 自然のひとこまを、情緒を交えて歌ったものにも注目する。
  菜の花の花の盛りや傾城の魂のごと
  蝶ひとつ来る
 父からの負債の相続や家庭内の不和に悩んだ吉井は、流転の人となる。その頃の歌には、やり場のない怒りも垣間見える。
  いささかは世を憤るすべも知る
  しかはあれども歌にかくれむ
  末法の世を嘆きわび今日もまた
  いきどほろしく酒に走るも
 関東大震災の歌。
  吾子は寝ぬわれは眠らで夜を守らむ
  この怖ろしき更けがたき夜を
 巻の終わりに近づくに従って、初期の趣とは異なる、老いを隠さぬ歌が目立ってくる。
  うつそみの老の眼鏡の度も増して
  さすらひ心極まりにけり
  われ老いて貧しとはいへわびずみの
  厨のために歌は鬻がず
  われ若く与謝野の大人(うし)にともなはれ
  はじめて見たるその舞妓(まひこ)誰(たれ)
 吉井は一九六〇年、京都で死去した。どこか生の実感が希薄なたおやかさを持つ吉井の歌を、私は今も好きだ。

【書籍情報】
与謝野鉄幹他『日本の詩歌(4)』、中公文庫、一九七五年


日本の詩歌 (4) 与謝野鉄幹 与謝野晶子 若山牧水 吉井勇 (中公文庫)

日本の詩歌 (4) 与謝野鉄幹 与謝野晶子 若山牧水 吉井勇 (中公文庫)

  • 作者: 與謝野 鉄幹
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1975/03/10
  • メディア: 文庫


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ナイル2018年1月号掲載歌【ポレポレ】 [ナイル短歌工房]

ひとときを本牧にゐる曇り日は踏みしだかれたどんぐりの夢

ちかぢかと群れゐる子らをくぎづけに形なしゆくバルーンアート

すぎゆきを問はざる街に根を下ろす在り処とならむ品をあがなふ

縫ひものの上手といはれ饒舌のをとこの首に刺青の見ゆ

指さきにかすかな皺を辿りつつ作りしひとを思(も)ふデコパージュ

外つ国の人も混ざりて湯気の立つ屋台の列の賑わうてをり

からだより大きな瓶を抱へたる切り絵のねこよ酒は飲め飲め

大小の切り絵のあまたへそ天の猫いつぴきを連れてかへりぬ

ポレポレはスワヒリ語とふ生きづらきあしのねの世をゆつくり歩め

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ナイル2017年12月号掲載歌【火と水の】 [ナイル短歌工房]

攫はれるやうにたまゆら目の端をなでては過ぐる黄金さざなみ

水の香のはつか匂へるゆびさきを手繰りよせれば水の花咲く

暗室にゆくりなく射す一条のひかりのしづく闇まひるまの

まどろみは遠いとほくへ耳もとに寄せてはかへすはつあきの風

つついてもこはれぬきみの円環はふはりと浮かぶ雲を抱きこむ

木犀に肩を押されて坂道はふたたび逢はぬ香のふきだまり

火と水のまじはるところうつそみの人にはあらで経るみそかごと

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ナイル2017年11月号掲載歌【卍】 [ナイル短歌工房]

卍とも七ともつかぬ十字はや若きらの描くあいまいな過去

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忘れたいのは嘘でせうピレネーの天使の眼(まな)に色なき風は

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一滴のインクのにじみ色褪する「死ぬときはたれもひとり(イェーダー・シュティルプト・フュア・ズィッヒ・アライン)」

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この国のすぎゆきのいま松明の真闇にひづむボシュの顔かほ

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信仰とおぼしきものの涯のはて寄せてはかへす死者たちのこゑ

八十年のたたかひを経てなほつづく「星(シュターン)」といふ名のしめすもの


NNM Trailer from Charlene Stern on Vimeo.


銃(つつ)の上(へ)に花咲かせたるヒト型のアンドロイドの不器用な手は

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言ひつのり退路をなくすしろたへの仮面のうらに視るスワスティカ

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A Popular Japanese Cosmetic Surgeon Is Called Out for Admiring Nazism

貴(あて)ならばあまた負ふもの水晶のかがみのうへに影はうごめく

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麻生副総理「ヒトラー、いくら動機正しくてもダメ」:朝日新聞デジタル

ghetto(ゲットー)とこだまの呼ばふ日ざかりはエノコログサの揺れる空き地に


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現代語や、簡易語のこと [ナイル短歌工房]

かなり前に、NHK短歌で
「中待合」ということばが取り上げられました。

いわゆる新語として、共通理解があるかどうかという。

この場合は、ぎりぎりセーフとの判断でした。

結社の歌会でも「終活」が話題になったことがあります。

言われてみれば分からなかったので調べました。
「終焉活動」かな。

共通理解の域に達しているか、一部の人の理解に留まるのか、
いろいろあります。

今月の詠草は「オリパラ(オリンピック・パラリンピック)」、
「簡宿(簡易宿泊所)」という略語をあえて使いました。

31文字という制約もさりながら、
現行の問題について、
調べてでも略語を知ってもらいたかったからでもあります。

ナイルは詠みぶりについて制約のない一方、
新語についての判断は厳しいので
私の選択がどう評価されるかは分かりません。
評価に従って、自分の判断を変えるつもりはありませんが。
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ナイル2017年10月号掲載歌【カジノ】 [ナイル短歌工房]

くろふねはノースドックの身代はりを担うてきたり山下埠頭

オリパラにことよする手はつけられて波止場食堂やをうつりけり

陽ざかりをコトブキへゆく賭けごとの染みたる街にそを聞きにゆく

簡宿を見上げて問へば手を横に振るひとのありさうか要らぬか

上ぐるこゑなきにあらざり次々と手に取られゆくみどりのシール

「これからの人には要らぬ」ぎりぎりの生計(たつき)をなさむ老いのひとこと

電光板に数字するどく暗がりにひたすら黙すやみの群むら

ともがらは曰はく「博打のカミサマ」よカジノカジノとはしやぐ男の

昼なかを地べた座りの人ひとの空にづぬけたひまはりは揺る

Roulette, win or lose すぎゆきは海馬にゆれるハスキーヴォイス

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十首目の「ルーレット」は全曲が聴けないので、試聴できるリンクを貼ります。
Amazon.co.jp: ルーレット: 上田 正樹: デジタルミュージック
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ナイル2017年9月号掲載歌【片輪むすび】 [ナイル短歌工房]

タクシーの窓にひろがる海の面に逆さネオンのひづみのかたち

おぼつかな陸と海との逢ふところガラスに映るみかづきのかほ

妄執を飼ひならしつつヨコハマの夜をとぶらふ汽笛を聞きぬ

飲みさしのビールの缶をそのままに浅きねむりのひと夜かなしき

しつとりとたまごの匂ふトーストに蜜を添へてはみなつきのあさ

行き止まりの白壁のありあまごもりつゆのひぬまの影をうつして

あすはなき七角形の部屋にゐてひと日をあそぶかたなわむすび

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ナイル2017年8月号掲載歌【黙はよこたふ】 [ナイル短歌工房]

たまさかるあの世この世をはしわたす結界として水はありにき

橋ひとつ渡ればしばしぬばたまの夜のそこひに黙はよこたふ

ささいなるいとぐちならむ道行きの手を漏るみづの糸のあやなす

共謀はあてどを知らずあしのねの我がためならぬ罪とはなにか

用ふべき手駒のなくて歩ばかりの陣をせばむるほのほの輪舞

逃げまどふおかまのあはれいつの世も受け入れられぬひとであつたよ

謀りごとたがひちがひに綯ひあはせ快楽(けらく)となさむひとよの花火

かがみなす浄夜あければももとせを待たずしをるる手向けの花は


深川安楽亭 (新潮文庫)

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  • 作者: 山本 周五郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1973/12/04
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