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春の鐘/終焉 [文学・童話]

身の裡に帯びる刃(やいば)は不確かで此(こ)に在る生も死も視えぬまま

ゆるゆると絞むるがごときTOKYOの高架のもとに荒みゐる無為


このまま題をお借りして詠んでいると
範子が身の裡に棲んでしまいそうなので…。

灰色に澱んだ空とその下にひろがっているコンクリートの建物に、内面の暗い風景が重なっていた。夫を刺し自分も死のう、と決断したのは、あれは本心だったのか、たしかにあのときあたしは出刃を握ったが、刺そうという感情はなかったはずだ、 (中略)  この暗い内面の風景は、もしかしたら生涯消えないかもわからない……。鍵をあける音がしたと思ったら勝森がはいってきた。とにかく今日はこの男を相手に軀を灼きつくそう……。(立原正秋「春の鐘」より抜粋)

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春の鐘 [文学・童話]

立原正秋の小説「春の鐘」をモチーフにした連作を読みました。

  白睡蓮・清しくも艶めき咲ける睡蓮の悩める如く涙抱けり

立原は好きで若い頃ずいぶん読んだので、
「春の鐘」も冒頭を一読してすぐそれと分かりました。

春まだき朝の鐘の聞こゆれば彷徨ふ己が身をし見つむる

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重ぬるは範子であらう凛と咲くアイリスのあを身に染まざりき

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「アイリス」は小説を読んだ方でないと分かりにくいと思いますが
主人公の鳴海が西洋花は好かないが、青いアイリスだけは好むことを
妻の範子でなく娘が憶えており、父の書斎に一輪生けていたという
設定になっているものです。
ブログ主の方はもちろんお分かりになったようで、
四句と結句の一部を採っていただきました。
ありがとうございました。

いつか晴れた海で [文学・童話]

何年も探していた本をネットオークションで見つけました。
すでに絶版の本でAmazonではあまりに高く、入手できないでいたものです。

吉岡忍「いつか晴れた海で」。

内容(「MARC」データベースより)1994年5月29日平田豊が死んだ。苦しんだのは彼だった。死んだのも彼だった。平田豊はエイズで死んだ。日本で初めての性行為によるHIV感染のカミングアウト。それからの2年間。写真と短歌で綴る、エイズと彼の道程。

平田豊と聞いてぴんとくる人はあまりいないと思いますが、
高校生時代だかに短歌雑誌に投稿を続けていた歌が
歌人の前登志夫さんの目にとまったものの、
前さんの弟子にならず上京したため作歌を中断、
HIVを発症してから再開した人です。

そんなわけで歌の数が多くなく、歌集としては出版されていないため
彼の歌をまとめて読めるのはこの本しかありません。

数日前に書いた「デカダン村山槐多」も届いたばかりですが、
まぁ歌集というのは一気読みするものでも
一読して終わるものでもありませんし。
届いたらゆっくり読みたいと思います。

治療なき午後のひと日を母といて 死の外側を考えている(平田豊)

「真黒な夢」「死の外側」を詠みしひとレッドリボンを知らずに逝きぬ(紫苑)

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「檸檬」 [文学・童話]

寒の雨黄の柚子ひとつ置かれおり発火装置の危うさを秘め

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家の近所に柚子の木があるお宅があります。
ある日、たわわに実った柚子を全部収穫なさったのですが、
急に雨が降ってきたので急いでいたのか、
ひとつだけ台の上に置き忘れていました。

雨に濡れた果実はそこだけ異質の存在のようで…。

梶井基次郎の「檸檬」を思い出しました。

主人公が京都・寺町の「八百卯」で買った檸檬を
河原町の「丸善」の美術書の上に置く……。
主人公にはその檸檬が爆弾のように思えた、という短編です。

ただ、柚子はレモンのように混じりけのない黄色ではありませんし、
紡錘形でなくまん丸なので、「爆弾」よりは小さなイメージを抱きました。

一気につくったままなので特に下の句の推敲がたりませんが、
京都で学生時代を過ごされた経験のある方が
たいそう懐かしがってくださったのが、とても嬉しい作品でした。

月月粉(ユエユエフェン) [文学・童話]

李白にも薔薇の詩ありとひとのいふ月月粉のまろきももいろ

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ある雑誌を読んでいて、中国の大詩人・李白に
薔薇をうたった詩があることを知りました。

ヨーロッパにはハイネ、リルケ、ボードレール、ブレイクなど
薔薇をうたった詩は数知れずありますが、
中国にバラの詩があるとは思いませんでした。

調べたところ、それは「憶東山」という詩だとわかりました。

不向東山久(東山に向かはざること久し)
薔薇幾度花(薔薇幾度か花さく)
白雲還自散(白雲還た自ら散じ)
明月落誰家(明月誰が家にか落つ)

東山を訪れなくなって久しい。
バラの季節は何度訪れて、花が咲いたことだろう。
白い雲はまた、おのずから散っていったが
名月はどこへ沈んでゆくのだろうか。


この詩にうたわれたバラは、野バラだそうです。

月月粉(ユエユエフェン)は、中国産の淡いピンクのバラです。
オールドローズとはいえ、比較的最近できた品種なので
もちろん李白の時代にあったわけではないのですが、
剣弁高芯でなく、丸い姿がいかにもアジアのバラという感じで……。
時代は違えどつい連想してしまったので、そのままに詠みました。

子供の頃読んだ絵本をもとに…… [文学・童話]

売れ残り泣いたおもちゃがそを買えぬ子の枕辺にありますように

幼い頃読んでもらったドイツ語の絵本。
舞台はクリスマスイブの夜のデパート。
売れ残ってウィンドウで泣いている人形たちを、サンタクロースがやって来て、
どこへともなく連れて行く話でした。
それを見送る警備員さんもあたたかく描かれていました。

サンタクロースの行き先は明かされないまま話は終わっているのですが、
売れ残ったおもちゃが、おもちゃを買えない子供の枕元に
そっと置かれていたらいいなと、子供心に思ったものです。

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折句「青い薔薇」 [文学・童話]

秋のうみ帯よりはなれ息づける薔薇のいのちは落日に燃ゆ

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この歌は、デボルド・ヴァルモールの 「サアヂの薔薇」という
詩を下敷きにして作ったものです。

「サアヂ」は13世紀ペルシア「薔薇園」の詩人
サーディのことです。

この詩を知ったのは中学生の頃でしたが、とても美しい詩なので
内容などなにも分からぬままに覚え込み
今に至っています。


サアヂの薔薇        デボルド・ヴァルモール

この朝(あした)君に薔薇(そうび)を捧げんと思ひたちしを、
摘みしはなむすべる帯にいとあまた挿み(はさみ)入るれば
張りつめし結び目これを抑ふるにすべなかりけり。

結び目は破れほどけぬ。薔薇の花、風のまにまに
飛び散らひ、海原めざしことごとく去つて還らず。
忽ちにうしほに泛び(うかび)漂いて、行手は知らね。

波、ために紅に染み、燃ゆるかと怪しまれけり。
今宵なほ、わが衣(きぬ)、あげて移り香をこめてぞくゆる……
吸ひ給へ、いざわが身より、芳はしき(かぐはしき)花の思い出

薔薇と木犀草 [文学・童話]

春来たり薔薇と木犀草(レセダ)のともに咲けば
みなに等しく愛の降るらむ

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金木犀の季節に、ルイ・アラゴンの詩を詠んだお歌をいただきました。
詩は「薔薇と木犀草」。
(金)木犀の香る夕べに、木犀草(レセダ)をうたった抵抗の詩を
おもいます、という内容のお歌でした。

詩そのものを詳しく読み返さないと歌をお返しできないので、
その時に読み直しました。

この詩は、キリスト教徒のエティアンヌ・ドルヴとジルヴエル・ドリュ、
共産党員のガブリエル・ペリとギイ・モケに献げられています。

思想や信仰は違えど、ともに祖国のために闘い倒れた者達と、
共同の闘いへの讃歌をうたうことで、
ひろく統一行動を呼びかけた名詩として知られています。


薔薇と木犀草        ルイ・アラゴン

神を信じた者も
信じなかった者も
ドイツ兵に囚われた あの
美しきものをともに讃えた
ひとりは梯子にのぼり
ひとりは地にうっ伏した
神を信じた者も
信じなかった者も
その足跡はかがやいていた
その呼び名は問うまい
ひとりは教会よりあるいてきた
ひとりはそこを避けてきた
神を信じた者も
信じなかった者も
ともにみな忠実だった
その唇で 心臓で その腕で
ともに叫んだ 祖国に栄光(はえ)あれ
時がくればわかるだろう と
神を信じた者も
信じなかった者も
麦が霰にうたれているとき
気むづかしいのは愚かなこと
共同のたたかいのなかで
たがいに争うのは愚かなこと
神を信じた者をも
信じなかった者をも
高い砦のうえから
哨兵は撃った ひとりまたひとり
ひとりはよろめきたおれ
ひとりは倒れ 息絶える
神を信じた者も
信じなかった者も
ともに裏切らなかった
あのものの名をくり返えし
赤いその血は流れ 流れる
おなじ色に おなじ輝き
神を信じた者も
信じなかった者も
その血は流れ 流れ交わる
ともに愛した大地のうえに
新しい季節がくるとき
麝香葡萄のよく実るように
神を信じた者も
信じなかった者も
ひとりは地を駈けひとりは空をとぶ
ブルターニュから ジュラの山から
蝦夷苺よ すももよ
蟋蟀もなお歌いつづけよ
語れ フリュートよ セロよ
雲雀と燕とを
薔薇と木犀草とを
ともに燃えたたせた あの愛を

小説にはまる [文学・童話]

闇いろの花を巡りて憧れはページを離れ外つ国へ飛ぶ

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花を巡る権謀術数渦巻く本を読み出したら、
面白くてついつい夜更かしをしてしまいました。

「闇」を使ったのは、愛憎に名誉欲や金銭欲や
政治的要素がからんでドロドロのせいもありますが、
花の色が黒だからです。


La Tulipe Noire

La Tulipe Noire

  • 作者: Edgar Ewing Brandon Alexandre Dumas
  • 出版社/メーカー: BiblioLife
  • 発売日: 2009/07
  • メディア: ペーパーバック


アンドレ・ジイド [文学・童話]

若き日の気負いといたみをはらみつつジイドの風はホライズンブルー

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アンドレ・ジイドを詠んだお歌をいただきました。

ときに文学や詩を詠んだお歌をいただいて、返歌するとき、
それらと自分とのかかわりを思い起こし、きちんと見るべく
ある程度つきつめて考えてみます。

自分がジイドを読んだときどう感じたかを思い出してみると……。

「狭き門」「田園交響楽」「一粒の麦もし死なずば」などを
読んだのは高校生の頃。
何となくつかみ所の無いような遠さを覚えた記憶があります。

ジイドは既成のキリスト教的な倫理からの開放を訴えた反面、
実生活では同性愛や結婚の破綻なども経験し、
彼の文学のどこかに悔恨がうすく流れているような感じがします。

「ホライズンブルー」は名の通り水平線付近の薄い水色のことで、
諦念というのではありませんが、強烈な主張というよりは
思うままに生きたことへの苦み、遠くを見る目のようなものを
表したくて使いました。
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