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スプウン [恋愛]

スプウンの面曇りけり馬車道に淪落のごと華尼拉(ハニルレ)あまし

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twitterで長音符を使わないでカタカナを書くと
お洒落に感じる、という話題が出ました。

そこから、太宰治の「斜陽」の冒頭、お母さまの話になりました。

 朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、
「あ」
 と幽かな叫び声をお挙げになった。
「髪の毛?」
 スウプに何か、イヤなものでも入っていたのかしら、と思った。(中略)
 スウプのいただきかたにしても、私たちなら、お皿の上にすこしうつむき、そうしてスプウンを横に持ってスウプを掬い、スプウンを横にしたまま口元に運んでいただくのだけれども、お母さまは左手のお指を軽くテーブルの縁にかけて、上体をかがめる事も無く、お顔をしゃんと挙げて、お皿をろくに見もせずスプウンを横にしてさっと掬って、それから、燕のように、とでも形容したいくらいに軽く鮮やかにスプウンをお口と直角になるように持ち運んで、スプウンの尖端から、スウプをお唇のあいだに流し込むのである。そうして、無心そうにあちこち傍見などなさりながら、ひらりひらりと、まるで小さな翼のようにスプウンをあつかい、スウプを一滴もおこぼしになる事も無いし、吸う音もお皿の音も、ちっともお立てにならぬのだ。(後略)


この「スウプ」「スプウン」が同様に情緒を醸し出す表記だ、というところで一致しました。

調べたところ、長音符の歴史は意外に古く、
外来語をカタカナ表記するようになった明治時代だそうです。

そこで、日本で初めてアイスクリームを製造販売した
馬車道の「相生」をイメージして詠んでみました。

ちなみに「華尼拉(ハニルレ)」はバニラの和名で、
やはり明治時代に使われていた表記だそうです。


性愛を詠む [恋愛]

難しい歌題です。

ともすれば卑近になります。

加えて、ことに女性の場合、実生活と絡めて解釈されれば
揶揄や非難の対象になることは想像に難くありません。

戦中から戦後にまたがって活動した歌人の湯浅真沙子や俳人の鈴木しづ子は
実生活と結びついた性を詠った女性ですが、
時代の波の中に消えていったのはやはり世の趨勢になじまなかったのかとも思います。

歌集 秘帳

歌集 秘帳

  • 作者: 湯浅 真沙子
  • 出版社/メーカー: 皓星社
  • 発売日: 2000/02
  • メディア: 単行本



夏みかん酢つぱしいまさら純潔など

夏みかん酢つぱしいまさら純潔など

  • 作者: 鈴木 しづ子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2009/08/20
  • メディア: 単行本


比較して、「有夫恋」の時実新子や「ベッドサイド」の林あまりが
センセーショナルに取り上げられはしたものの少なからず共感を呼ぶのは、
性がそれだけオープンになったと言えるのでしょう。

有夫恋 (角川文庫)

有夫恋 (角川文庫)

  • 作者: 時実 新子
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1996/12
  • メディア: 文庫



ベッドサイド (新潮文庫)

ベッドサイド (新潮文庫)

  • 作者: 林 あまり
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/09
  • メディア: 文庫


文壇でなくごく身近にみても、この手のジャンルの歌は好悪がはっきりします。
例えば「うたのわ」で普段交流があっても、もっと美しい恋愛観をお持ちで
この種の歌は絶対に好まない方もおられます。

私の場合、いったん踏み切ってしまえば挑戦することにさほど抵抗はありませんが。
加えて私の場合、どこかに実際そういった一面があるのでしょう。

まなうらに白き花火の拡ごりてかなしきまでにゆつくりと散る

愛咬や散り敷く梅が香のとほく闇間に冴ゆる糸切歯かな

夜を知らぬ快楽の果てに胸を噛む月の紅きを哭きし日のあり

髪撫づる巨きてのひら群れをなす泡立草の黄に神さぶる

君はそを釦と呼ぶか錦繍をまなうらに描くつみふかきもの


ちなみに、あえて解題を避けましたが五首目の「君」は男性ではありません。
「秘帳」を読まれた方はお分かりかと思います。

わが釦キスしたまへばつよき刺戟身うち轟く心地こそすれ
わが釦キスさるゝとき思はずも放つわがこえうらはづかしき(湯浅真沙子)


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直球勝負 [恋愛]

今、穂村弘さんの「絶叫委員会」を読んでいます。


絶叫委員会

絶叫委員会

  • 作者: 穂村 弘
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/05
  • メディア: 単行本



穂村さんは歌人ですがこれは歌集でも歌論でもなく、
「巷で偶然生まれて消えてゆく詩」をテーマにしたエッセイです。

そのなかの「直球勝負」という章に、こんなエピソードがありました。

 ものすごい直球を投げるひとがいる。
 数年前に十人ほどの友人たちと温泉に行ったときのこと。そのなかには何組かの夫婦もいたのだが、男は男部屋、女は女部屋というかたちに分かれて泊まっていた。
 次の日の朝、我々男性陣が食堂に向かって歩いていると、向こうから連れの女性たちが歩いてきた。互いに「おはよう」を云いながら合流したのだが、そのとき、私の隣にいた男が彼の妻に向かって云った。

「今日もきれいだよ」

 ど真ん中のストレートだ。周囲の女性たちのなかには無言のうちにわーっという空気が広がり、男たちはびびりながら心のなかで(?)顔を見合わせた。奥さんは、何云ってんの、とむにゃむにゃ呟いて照れていたが、やっぱりどこか嬉しそうだった。
 このタイミングでのこれは普通なのか? 全ての夫が云うべき言葉? よく知らないがアメリカなどではそうなのか? 州によっては法律とかで? しかし、ここは日本の旅館で我々は浴衣姿なのである。とはいえ、彼の口調は自然で気負ったところがまるでなかった。生まれながらのクラーク・ゲーブルのように様になった愛情表現は、私の心に強く灼き付いた。


わかるわかる。この雰囲気。このあせりよう。
でもいいですよね。こう自然に言える人。
これを自然に受けとめられる人も。

気負いなく「愛している」と云ふ君に返すことばを我は持たざり

アメリカで青年期を過ごした知人を思い浮かべて詠みました。


「書かない」こと [恋愛]

今、穂村弘さんの「短歌の友人」を読んでいます。

世界をリアルに表現するテクニックのひとつとして、
「書かない」という方法があげてありました。


したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ(岡崎裕美子)

何を「したあと」なのか、その行為の内容に関して、ここでは具体的な情報が伏せられている。だが、多くの読者はこれを直感的に「セックス」だと感じ取るのではないか。



短歌の友人

短歌の友人

  • 作者: 穂村 弘
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2007/12
  • メディア: 単行本



たしかに……。
ここで100%書いてしまうことはあまりにえげつなく、表現としても返って稚拙でしょう。

そんなことを考えながらつくったのが次の一首です。

みぢか夜のはじめとをはり括るごと交はせる君の波にかがよふ

まつげ [恋愛]

俯(うつぶ)せて眠るまつげの濃き影に葡萄の葉ずれ幽けきを聞く

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昔「六本木心中」だったか、「長い睫毛が卑猥ね」という歌詞がありましたが、
仕事先の上司は若い頃さぞもてただろうと思われる
男性にしては濃く長い睫毛を持った、なかなかハンサムな人です。

デスクに観葉植物をひと鉢置いていて、日に当てたりして可愛がっているのですが
ある日それを羊歯(シダ)の仲間だと教えてくれました。

葉を見ればどう考えてもぶどうの仲間なのですが……。

(その植物が「パーセノシッサス・シュガーバイン」というブドウ科であることは
あとで知りました)

先日のこと。
在室のはずなのにいやに静かなので部屋を覗いてみると、
寝不足だったのでしょうね、彼が突っ伏して眠り込んでいるのが見えました。

……それでできたのが、この歌です。

「初恋」 テーマ詠 [恋愛]

春雨のしづく置きたる堅香子のうつむくさきに恋ひとつ落つ

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高校まで女子校でしたし、大学入学後もなにより家がきびしく、
いわゆる「淡き初恋」らしきものは全然ありませんでした。

「初恋」をテーマにした歌会が開かれたとき、実はスルーしようと思ったのですが
主宰者から投稿の督促があり逃げるわけにもいかず……。

先日、「笹短歌ドットコム」で「花田少年史」を詠んだせいか、
「初恋」からすぐ連想したのはカタクリの花です。

ある日、主人公の一路と知り合い、一路の家に世話になるりんこ。
本名は倫子(のりこ)ですが、皆にりんこと呼ばれています。

りんこは一路に、今は無人となった部落のはずれにある
崖下に転げ落ちた石のお地蔵さまを
元の場所に戻してほしいと頼みます。

このりんこ、実は生きている人間ではありません。
昭和の初め、その部落から口減らしのために女郎屋に売られ、
家に帰ろうと逃亡して追われたあげく、その崖から落ち、死んでしまったのです。
りんこの母親はそれを嘆き悲しみ、もともと病身だったこともあって
ほどなく世を去ってしまいます。

りんこが「元の位置に戻して欲しい」と頼んだお地蔵さまは、
彼女らを弔うために村人が彫った母子地蔵の子供のほうだったのです。

一路が石地蔵を元に戻した夜、りんこは一路を自分と一緒に
連れ去ろうとします。
でも、普段はしょっちゅう一路を怒ったりぶったりしている一路の母親が
涙でぐしゃぐしゃになりながら一路を探す姿を見て、
りんこは「一路がとても好きだから置いていく」と言い、天にのぼってゆきます。

一路が石地蔵に供えたカタクリは徐々に増え、やがてあたり一面
薄紫のカタクリが咲くようになるのでした。

堅香子(カタクリ)の花言葉は「初恋」。
この世で実を結ばない、ほんとうに淡い初恋のお話です。

題詠「草」 [恋愛]

ひともとの草となりせばいくさとて箙(えびら)にひそみ君に従(つ)かまし

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テーマはフランソワーズ・アルディの「私の騎士」という曲からとりました。
作詞はアルディ自身、作曲はブラジルのギタリスト・トゥーカの手になるもので、
アコギ一本の伴奏に乗せたメロディと歌詞がなんとも美しく切ない曲です。

Si mi caballero,
Il me suffirait,
D'être ce brin d'herbe
Qui colle à ta peau.

私の騎士よ
草の切れ端になりさえしたら
あなたの肌にぴったりついていくのに。


画像は日光の古戦場です。

赤い月 [恋愛]

誰がための涙たたへむ昨夜(きぞ)の月ももいろ苦き葡萄果(ぶどうか)のごと

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数日前、夜半頃の月がほんのり桃色で、1時半頃には妙に赤かった
日がありました。
血のように赤い月はどこか不吉だけれど、
ももいろの月はどこか甘くほろ苦く……。

ピンクのグレープフルーツのようだと思いましたが
「グレープフルーツ」が和名とは知らなかった……。
あまりに長すぎるので、直訳ですが造語を使いました。

こんな月には旧いカンツォーネがよく似合います……。
(下の歌詞はリュシエンヌ・ドリールのフランス語バージョンです)

Prière à la lune (Luna rossa)
                 by Lucienne Delyle

Dans la ville endormie
Le vent frissonne
A tous mes souvenirs
Je m'abandonne

Pour me parler de toi
Dans la nuit brune
Je n'ai plus qu'une amie
Et c'est la lune

Ô Luna rossa, reine des nuits
Du haut des cieux, toi qui me souris
Veux-tu porter cette mélodie
A celui que j'adore ?

Puisque toi seule en as le pouvoir
Luna rossa, je voudrais savoir
Si son amour m'est resté ce soir
Toujours aussi fidèle

Luna Rossa
Est-il encore sincère ?
Luna Rossa
Ne mens pas, tant pis pour moi
Si je dois en pleurer

On m'a déjà menti tant de fois
On m'a déjà volé tant de joies
Ô Luna Rossa, je ne veux pas
Qu'à ton tour tu me trompes

Ô Luna Rossa, reine des nuits
Tu as connu toutes nos folies
Et tu savais quand sonnait minuit
Te couvrir d'un nuage

Ô Luna Rossa, les soirs d'été
Tu nous guidais parmi les sentiers
Où nos deux ombres semblaient flâner
Ne formant qu'une image

Luna Rossa
Tu sais combien je l'aime
Luna Rossa
Promets-moi que, loin de moi,
Tu le protègeras

Et quand bientôt il me reviendra
Luna Rossa, nous prierons tout bas
Car tous les deux nous croyons en toi
Autant qu'en la Madone

Luna Rossa
Luna Rossa

ズブロッカ [恋愛]

春を待つみどりの酒は君を灼き我が想ひ草瓶に萎るる

   zubrocka.JPG

ズブロッカを最初に飲んだのが何歳頃か忘れましたが、
まぁなんてすてきなお酒だろうと思いました。
香りがよくて、ほんのり緑色で。

知人が「カルバドスポム」を歌に詠みました。
カルバドスの瓶の中にりんごが入っているお酒です。

お酒の歌っていいなと思いましたが、
「イブの林檎」などと呼ばれる女らしいふくよかなお酒は
どうも私の詠むイメージにありません。

それならと、「お酒に何か入ってる」つながりで思いついたのが
ズブロッカです。

ズブロッカに入っているバイソングラスという草は
お酒を注いでも普通は瓶の底に残ってしまうので、
離ればなれになるイメージで詠みました。

恋愛を詠む [恋愛]

純愛を詠みえぬ胸の隠沼(こもりぬ)に鬼火のひとつ蒼く灯れる

   aube.jpg

もともと恋歌は苦手なところへもってきて、
素直に詠むことにどうしても抵抗があります。

避けては通れない歌題なので、時に詠んではみるのですが。

気軽に詠めないほど美しい思い出を持ち続け、
ていねいにていねいに詠んでいらっしゃる方をみると
その純粋さが本当に羨ましいのですが、
どうやらそれは私の持ち味ではないようです。