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ナイル9月号掲載エッセイ【庭園の色彩を詠む】 [ナイル短歌工房]

 6月29日、DIC川村記念美術館が主催する「庭園の色彩を詠む」という短歌講座に参加した。
 川村記念美術館は、千葉県佐倉市の同社総合研究所の敷地内にあり、所蔵品は千点を超えるほか、建設前からの自然を残した散策路を無料開放している。今回の講座は、同館が「色彩の芸術家」として知られるフランク・ステラのコレクションで有名なところから、「色彩」というテーマにこだわり、庭園を散策しながら花の歌を詠むという趣向で計画されたようだ。
 日本短歌協会に講師派遣の要請があったことは会報で知っていた。甲村代表が講師を務めた第一回は平日だったため参加できず、日曜日に開講された第二回に申し込んだ。せっかく時間をかけて遠方まで行くのだから、花の写真も撮りたい、展示も観よう、地の産物を使ったメニューがあるというレストランでお昼を、などと、日帰り旅行ともいうべき欲張りな計画とともに。

 当日は朝からあいにくの雨で、庭園に着いたとき、花々はみなしっとりと露を含んでいた。ヤマユリ、紫陽花、睡蓮や大賀蓮(古代蓮)がちょうど見頃で、なかでも紫陽花は、午後のワークショップで講師の依田仁美氏が「城砦」と表現されたほどだった。(それを読んで、デュ・モーリアの『レベッカ』に出てくる、マンダレイに続く血のように赤い壁、しゃくなげの描写をふと思い出したのは私だけだろうか。)それ以外にも桔梗、マンリョウ、山法師(山桑)、ホタルブクロ、半夏生など、挙げればきりがないほどの草花に目を奪われた。もみじは飛ばす直前の小さな赤い種をたくさんつけていた。スモークツリーには水滴がいっぱいで、キラキラ光る雲のような美しさだった。

 その後、館内の展示を見るにあたっては、先輩同人の方から話を伺っていたので、メリハリをつけて観ることができた。煙るようなモネの睡蓮は、さきの蓮池が無人の静けさのうちにあったらこのような感じかと思わせるものがあった。
 ロスコ・ルームは以前、テレビの美術番組で見たことがあったが、実際の印象は映像とはるかに異なるものだった。薄暗い六角形の空間は閉塞されているようで、また全方向にひらかれているようにも感じられた。何ともいえない雰囲気とすばらしさに、中央に設置されたソファに腰掛けてしばし時を過ごした。ジョゼフ・コーネルの箱の中への、時の収斂。同館で注目されていた作品のひとつだったバーネット・ニューマン「アンナの光」が昨年売却され、観る機会を失ってしまったのは残念である。

 午後の短歌講座では、講師を務められた依田仁美氏(日本短歌協会常務理事)からまず十五分ほどのレクチャーがあった。初心者にも分かりやすく纏められた要点は以下のようなものである(資料より引用、要約)。
◆今日の課題
 四十五分で二首作る
 かならず出来る
 二首はできる
◆ふたつのパターン 叙景歌/叙情歌
◆口語体/文語体を今日のところはどうするか決める
◆ステップ(るるぶ)
 見る
 メモる
 選ぶ(主役語、脇役語)

 見方の例として資料に挙げられた歌を何首か引く。

 小瓶(をがめ)をば机の上に載せたれどまだまだ長し白藤の花(落合直文)
 くれなゐの二尺のびたるばらの芽の針やはらかに春雨の降る(正岡子規)
 向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちひささよ(前田夕暮)
 君と見て一期(いちご)の別れする時もダリヤは紅しダリヤは紅し(北原白秋)
 向日葵は枯れつつ花を捧げをり父の墓標はわれより低し(寺山修司)
 あじさいの花の終りの紫の濡れびしょ濡れの見殺しの罪(佐佐木幸綱)
 朴の花匂ふ幾日か重たきに書かむ手紙を書きそびれゐつ(石川不二子)

 午前中にかなり降っていた雨はすっかり上がって強い日差しが照りつけ、傘は文字通り無用の長物となった。
 庭園を散策しながら花を詠むフィールドワークは四十五分、連れだって行動するわけではないのでとても集中できた。歌の提出時間に遅刻するほど。はっと気がついたらフィールドワークの時間を五分過ぎていたのだ。それも美術館からいちばん遠い蓮池で。
 午前中の下見があったとはいえ、即詠ではあっても歌の形になったものが六首、断片が二つできたことは大きな収穫だった。
 講評で配られた資料を読んだところ、各人の提出歌は花を詠んだもの、野外彫刻を詠んだもの、花に自らの体験や思い出を投影したものなどバラエティに富んでいた。講評の時間が押したので中座せざるを得なかったのは残念だが、後から伺ったところによると、依田氏は私の提出歌について「女(め)」と「男(を)」の本質を述べられたようである。

 帰宅してから即詠を推敲し、印象に残った絵画や彫塑の歌を足して、今月号の詠草を仕上げた。私にとって連作はとても難しく、これで結実とまではゆかないけれど、当日の印象は残せたのではないかと思っている。

 日ざかりを微風にふれよ花々はうた詠むわれに何を語らふ


【お詫び】
ロスコ・ルームを六角形と記載しましたが、七角形の誤りでした。
お詫びして訂正いたします。

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コメント 2

春日

後 悔 の 押 し 寄 せ て 来 て 踏 む 紫 苑
by 春日 (2014-10-16 16:46) 

purple_aster

春日 様

すてきな俳句をありがとうございました。
ただ、紫苑はとても背の高い植物で
花を踏むとは考えにくいと思いましたので、
茎を踏んだことにして返歌といたしました。

踏まれたるなだりの末の思ひ草いろあはあはと秋の日に溶く(紫苑)
by purple_aster (2014-10-16 19:15) 

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